Culture NIPPON シンポジウム 京都大会

Culture NIPPON~2020年とその先の未来へ向かって~<京都大会>

2018年11月9日(金)、長岡京記念文化会館(京都府)にてCulture NIPPON シンポジウム京都大会が実施されました。

■オープニングアクト

和太鼓飛龍×FE OSAKA
和太鼓飛龍×FE OSAKA
和太鼓飛龍×FE OSAKA
和太鼓飛龍×FE OSAKA

■ショートプレゼンテーション

湯浅真奈美氏(プロフィール
「オリンピックと文化プログラム - ロンドン大会のレガシー」

湯浅真奈美氏
 2012年、ロンドンオリンピック・パラリンピックを行った英国は、「オリンピック・パラリンピック大会の開催国として、世界中の注目を集める特別な機会に、スポーツだけでなく文化芸術においても史上最高の祭典を行い、英国民のスポーツへの参加だけでなく文化への参加も拡大しよう」という視点から、英国全土で大規模な文化プログラムを開催した。
 ロンドン大会時の12週間、「Once in a lifetime ー 一生に一度きり ー 」というビジョンのもとに、ロンドン2012フェスティバルを開催した。英国の豊かな自然や文化遺産などに、世界中のアーティストを招いて、作品を発表する機会を提供し、多くの人々がそれを観に都市を訪れ、観光振興にもつながった。参加者は2000万人を超え、200を超える新しいアート作品が制作された。参加者の30%以上が35歳以下の若者であり、マイノリティの方、障害のある方、普段アートに参加する機会のない方も多数参加され、今後も参加したいというコメントが非常に多くみられた。こうしたプロジェクトは、自分たちの都市に対する誇り、「シビックプライド」をもたらした。
 パラリンピック大会では、4地域のアーツカウンシルとブリティッシュ・カウンシルが連携して、障害のあるプロのアーティストの活動を支援する「UNLIMITED」というプログラムを実施し、「英国が水先案内人となり、人を排除しない社会の実現を目指していく、世界に向けた大切なメッセージとなる」という目標を掲げ取り組んだ。
 このプログラムを契機に、障害のある多くのプロのアーティストの活動機会が促進され、国際的な活躍につながっており、大会終了後6年経つ今も続いている。
 2020年に向けて、オリンピック・パラリンピックを開催するというまたとない機会に、文化芸術関係者が明確なビジョンを持ち、その後の日本、他国の社会に大きな影響をもたらすよう、文化芸術を発展させられるような活躍を期待する。

辰巳琢郎氏(プロフィール
「京都の文化、日本の文化」

辰巳琢朗氏
 京都には歴史の長さがあり、独自の文化がある。文化とは、とても幅広い言葉であり、「文化とはなんだろうか」ときちんと考えた方が良い。
最近、文化といいながら、経済成長の文脈の中でとらえて、文化を売り物にしようとしている。経済は文化の僕(しもべ)である。文化がない経済は意味がない。文化というものをどのようにして、日本人として、京都人として、捉えていくかが問われていると思う。文化とは多様性がなければならない。人間は生物だから。生物として、DNAをどう子孫につないで生き延びていくかが、最大唯一の命題である。多様性がないと滅びる。
 「くいしん坊!万才」という番組に出演していた際、全国を回り、食のすごさ、地方ならではの価値観に何度も驚いた。独自のものがやはり素晴らしく、まねでは駄目だった。日本という国は、歴史があるだけに、相対的な変化のスピードが遅く、政治の世界でもゆっくり変わっていく部分がある。物事には両面があり、いい部分、悪い部分があることも把握しなければならない。
 例えば漁業の問題がある。漁村では、魚が少ない、漁師さんの高齢化、子どもたちの魚離れを聞いた。30年前、日本は世界第一位の漁業国であったが、今は第七位である。世界では漁業は右肩上がりの産業なのに、日本は半減、衰退している。一人で発信してもどうにもならず、昨年からG1サミットの仲間たちと一緒に、海洋環境水産フォーラムを立ち上げ、勉強をはじめた。ひとつのことを突き詰め、根本的に何が大切かを見極め、仲間と一緒に声を上げたことで、この度70年ぶりに漁業法が改正になる。
 日本は素晴らしいところがたくさんあるが、何もかもが素晴らしいと思い過ぎ、慢心している。マイナス面をきちんと把握し、何が大事か考えていかないといけない。地球温暖化のためCo2(二酸化炭素)が非難されているが、悪い面ばかりではない。我々が食べているものはすべてCo2から作られている。
 最近日本は、メディアの責任もあるが、すぐに対立構造を作ってしまう。本来の日本の文化は、ゆるやかで、相手のことを思いやって、もったいない精神がある民族である。何が日本の文化なのか、何が美徳なのか、もう一度考え直してほしい。まわりが言うからこれがいいというわけではなく、自分で判断するという基礎が固まっていれば、日本はもっとよくなると思う。
 我々の世代は、世界第2位の経済大国だったという意識が残っているが、若い人は衰退した日本しかみていないという、世代間の認識の差も意識しなければならない。「知足」という言葉を今ほど大切に感じることはない。何が本来の日本の文化か、美徳かを、2020年、それ以後に向けて国民皆で考えていくことが大切である。

為末大氏(プロフィール
「スポーツの可能性 ~文化の視点から~」

為末大氏
 ヨーロッパには、スポーツに対するジャンルがいくつかあり、数字で結果が出る競技、芸術点で競い合うもの等のほかに、チェスなどのマインドスポーツというものがある。チェス協会がオリンピック選考委員会に入っている国もある。スポーツというのは幅広い。スポーツは戦前にイギリスからやってきた。スポーツの起源は、ラテン語で「Deportare(デポルターレ)」であり、その言葉には、「日常から離れる」「詩を読んだり歌を歌う」ことも含まれる。
 デポルターレの観点でみると、スポーツと文化は離れていない。何かを表現してそれが勝ち負けにつながるスポーツ、それが曖昧だとアートの領域、そのくらいの差なんじゃないかと思う。
 ロンドン五輪の成功での一番のポイントは、パラリンピックを世界で最初に成功させたことである。「UNLIMITED」とは、障害に目を向けるものではなく、それによって卓越したものとして、研ぎ澄まされた別の力に焦点を当てて、彼らに「スーパーヒューマン」という言葉をつけた。実際に彼らは、「初めて観客が満員の前で走った、もう一回ロンドンパラリンピックで走ってみたい」と言っている。文化イベントからパラリンピックまでがまさに「UNLIMITED」となっている。スポーツ界が考えているオリンピック・パラリンピックのコンセプトと、文化イベントのコンセプトがブリッジして、日本はどういうものをメッセージとして伝えていくべきかが重要視される。
 スポーツ選手には、「頑張って試合に勝とう」と「伝えたいことがあるために勝つのだ」という二つのタイプがあり、オリンピックのコンセプトは、後者を問われている。私は今陸上で、選手がメダルを取ったときに、インタビューで何を伝えるかのサポートをしている。一緒に議論し刺激を与え、人間として成長していくと、必ず選手たちは自分の中に伝えたいものを見つけてきて、それをインタビューに盛り込むようになる。2020年に向けて、伝えなければならないことを見つけることが、日本の文化の中心に見えてくるのではないかと思う。
 最近オリンピックは、国別対抗ではなく、難民の方たちでグループを作って出場したり、LGBTの選手が、「人々を勇気づけるために戦う」と事前に発言し、試合に出ている。同じ苦しみをもつ人を応援する等、国とは別の軸のアイデンティティーが出てきている。2020年の東京のときには、国以外のアイデンティティーを応援できるような用意ができるとしたら、新しくて面白いと思う。

田端一恵氏(プロフィール
「誰もが参加できる芸術活動の可能性」

田端一恵氏
 社会福祉法人グロー(GLOW)が運営するボーダレス・アートミュージアム「NO-MA(滋賀県近江八幡市)」は、ボーダレス・アートという展示コンセプトのもとに、障害のある方の作品と現代アーティストのプロの作品を、一つのテーマのもとに一緒にみせていくことを特徴としている。
 日本では、アール・ブリュットというと知的障害や精神障害の方の作品が多く紹介されているが、元々は、メソッドや流行に左右されず自身の湧き上がる力で衝動的に表現されたものをさす言葉である。NO-MAが展覧会で紹介する作品は、全国各地の調査に基づいている。近年はアジアの国々の調査も行っている。
 また、海外と共同した展覧会も開催している。特に2010年のパリでの展覧会は、発信力が大きく、ヨーロッパ各地から日本のアール・ブリュット展を開きたいという声が相次いでいる。これらをきっかけに、多様な価値観を共有できる、「共生社会」の実現に寄与したいと考えている。
 映像で、NO-MAが出会ってきた作品と、その独創的な製作風景を紹介したが、彼らは作品として作っているわけではなく、毎日の生活の一部のようにやっている。その手法はどれ一つ取っても独創性に溢れ、自分たちの想像の域を超えたことがあると教えられる。
街中でもいろいろなエピソードが起きている。アール・ブリュット作品をみたことをきっかけに、その作り手である障害のある人に関心を持ち、特性を知った方が、スーパーマーケットでの障害のある人の突発的な行為の理由を理解し対応したことで、周りの人もそれを受け止められた、というエピソードがあった。ホームセンターでカタログを毎日めくり続けるという自閉症の男性の作品も、顔写真付きで地元紙に紹介されたことで、ホームセンターの人に、「アーティスト」として認識され、「アートの題材になるなら」とその行為そのものがプラスとして受け入れられたということもあった。こうしたエピソードがあちこちで積み重なることで、いろいろな価値観をお互いに共有できる社会につながると思う。
 私たちが行っている試みに、様々な方に展覧会に参加してもらう活動がある。展覧会を作る過程をNO-MAの学芸員と一緒に体験するという活動、展覧会を、「記者」として発信してもらう活動、展覧会の受付や作品案内をしてもらう活動である。引きこもり状態の若者、発達障害の方にも活躍いただいているが、出展する、見る以外にも、芸術への参加ができるということである。

■パネルディスカッション

モデレータロバート キャンベル氏
(日本文学研究者、国文学研究資料館長、東京大学名誉教授)
パネリスト湯浅真奈美氏(ブリティッシュ・カウンシル アーツ部長)
辰巳琢郎氏(俳優)
為末大氏(Deportare Partners代表)
田端一恵氏(社会福祉法人グロー法人本部企画事業部副部長)
村田善則氏(文化庁次長)

①日本の文化の力

ロバート キャンベル氏
 日本文化の力について、辰巳氏は、「日本は、輸入された文化を変化させて、日本の文化にするという許容力がある」と述べた。
 為末氏は、「伝統的には合わせてはいけないものだということを、あまり考えずにくっつけてしまうクリエイティビティがある」と述べ、キャンベル氏からは日本言語を人類の一つの共有財産にする、国文学研究資料館の活動の紹介があった。
 湯浅氏からは、「文化交流の際、一方的にいいことだけを言っても友達にはなれない」という意見があった。
 キャンベル氏は、「ありのままのところにあぐらをかかず、批判し、何が足りないか自己検証できるということは魅力的である」と述べ、辰巳氏はキャンベル氏の発言を受け、「もっと自由に発言すべきなのに、風を読んで発言をしなかったり、すぐに炎上したりという、変な世の中になっている。決して日本的なものではない。オリンピックに向けてこの部分をある程度突破しなければいけない」と問題提起を行った。

②文化の多様性に対する課題

 キャンベル氏は、「この数年間で、日本の中でも、「多様性」ということは大きな課題になっている。難民とセクシュアリティー、LGBTは、日本は先進国の中では大変遅れている。課題大国とも言われる日本において、皆が一緒に考え、ものを作っていく観点から、まず国民の関心が必要である」と指摘した。
 為末氏は、「“日本なら大体のことが寛容に入ってこられる”という方向に立つことが大事。アイデンティティーを強くしすぎると分断が起き、分断がないと何を理由に応援するのか分からなくなる。誰でもいいのであれば誰も応援しなくなる。そのさじ加減が、特にスポーツの競争では難しいところであるが、 世界がいろいろな違いで分断する中で、日本は寛容であることを思い切り追求していくことで、非常にユニークな立ち位置になり、それは結構日本に合っているのではないか」と述べた。

③文化庁のあり方と2020年に向けて

パネルディスカッション
 村田氏は、「改正された文化芸術基本法の前文に、「文化というものは・・・多様性を受け入れることができる心豊かな社会を形成するものである」ということがうたわれている。文化も含めた人間の営みが、オリンピックムーブメントの中に含まれているということを、多くの人を巻き込みながら、コンセプトとして訴えていきたい」と述べた。
 湯浅氏は、「イギリスは予算が潤沢ではなかったが、交通関係者や自治体などとパートナーシップを組んだことが、ロンドン大会成功の要因の一つになっている。一過性のイベントではなく、その土地の市民の方と一緒に作るワークショップのような教育的効果があるものを実施することで、文化に参加したいという人とのつながりが強くなる変化が起きている」と述べた。
 田端氏は、「障害のある作者、作者をサポートする家族や支援者、創作を面白いと思う第三者、という一つの関係性が日本らしい点として、海外から評価されている。それを日本が育んできた魅力として発信したらいいのでは」と提案した。
辰巳氏は、「文化プロデューサーの育成プログラムが必要であり、音楽、演劇、絵画など、縦割りになっていて、もっと横串を刺せる目利きが必要」と指摘した。
 キャンベル氏は、「自分が何者かをもう一度棚卸する、それぞれの持ち場の中で世界を迎えることに立ち会っていき、見届けていく必要がある」と述べ、締めくくった。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会はスポーツの祭典であると同時に文化の祭典でもあり、日本が誇る文化や伝統を世界へ発信する絶好の機会です。
文化庁は、日本の強みである多様性に富んだ文化を活かし、次世代へのレガシーを創り出す文化プログラムの周知・普及を図るため、Culture NIPPON シンポジウムを開催しています。